片岡義男さんの短編集「スローなブギにしてくれ」に収まっていたストーリー「ひどい雨が降ってきた」。
タイトルだけで香しく。
単車乗りにとって、雨というのは最悪で。
春夏秋冬、単車というものは季節や天候を直接感じ取れる乗り物で。
大学時代、芝浦方面の国道はどのコンクリートも排気ガスで黒ずんでいました。
そんな首都高の下は無機質でさっさと通り過ぎたい僅かな時間で。
真夏の通り雨、ほとんどスコールの様な場面もありました。
まさしく、ひどい雨が降ってきた。
普段立ち止まらない首都高の下で雨宿り。
フルフェイスの蒸したヘルメットを脱ぐと、それまで観たことの無かった光景が。
当時の汐留エリアは空襲にでも遭った様なだだっ広い空き地。都心には珍しく土に覆われ、それが幾つもの水溜まりを作り。
ここは将来どうなるんだろう?
これまで自分が観た雨降りのライダーで、一番印象に残っているのが東北道です。
知人の夏の帰省に便乗した自分、ワンボックスの四輪の前をひたすら走る単車。XLR250でした。
大雨の中、ひるむことも無く時速100km/hを崩さず。
どんな体力の持ち主なのか分かりませんが、ガソリン以上に体力を消耗しているハズで。
その何年か後に、自分もオフロードの単車に乗りました。しかし、晴れていても高速道の真ん中の車線をキープするのは大変なことでした。
タイトルだけで場面が浮かぶ作品。偉いと思います。
残念ながら、現在の「スローなブギにしてくれ」に「ひどい雨が降ってきた」は収まっていないらしく。これは村上春樹の短編集「中国行きのスロウ・ボート」から存在感ある作品が失われたに等しく。
村上春樹も場面を浮かばせるのが上手い作家ですが、リアルな感性は片岡義男も負けていないと思うんです。
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