2000年の元旦

北海道は低気圧の影響で数年に一度の猛吹雪だそうです。
2000年前後の自分は北海道で酪農系の技術者をしており、北海道から東北にかけて飛び回っていました。
乳牛のお乳を自動で絞るロボットの技術者、休日返上で昼も夜も関係の無い仕事でした。
なので、雪の恐ろしさを幾度か味わっています。

例えば地吹雪。
新冠(ニイカップ)という場所に国の試験場があり、そこへ伺う際は晴天でした。
しかし、風が非常に強く車で幹線道路から横に入った道をしばらく走っていると、一面真っ白。
北海道のパウダースノーは強風で舞い上がり、1メートル先さえも全く見えず。
緩い勾配をゆっくり下る道なのですが、数十メートル後方には大型トラックが走っていたのを直前に確認していて。
視界が悪ければ止まるのが基本ですが、下手に止まると大型トラックに追突されそうで。
幸い、真っ直ぐな道だったので全く見えない進路をブレーキもアクセルも踏まずハンドルだけしっかり握って。
数百メートルくらいだったと思いますが、視界が開けた時は生きている実感が湧きました。

普段は会社の車での移動が基本でしたが、その日はよりによってほぼ新車の自分の車でした。
当時の自分は少し背の高いワンボックスに乗っていて、それでも全く視界が効かず。
あれで激突されたり道路から外れて崖に落ちたりしたら、かなり痛かったです。
ちなみにこの辺りです。暖かい季節に観たら、とても長閑な情景なのですけれど。
他にも、深夜の国道のアイスバーンでブレーキが全く効かず、百メートルくらいタイヤが滑ったこととか(ほとんど、カーリングのストーンになった気分)。昼間だったら前の車に追突していたんだろうなぁとか。

当時のIT系の仕事ですと、二千年問題は多くの方が味わったと思います。
自分の扱っていた製品もそれに該当していました。
細かな話になるのですが、乳牛のデータが毎日更新されるのですがMS-DOSベースで動いていたコンピューターだったので、ファイル名は8文字以内の制限がありました。
例えば1999年12月31のデータですと「md991231.dat」という風に。これがまともな動きなら翌日は「md000101.dat」となるべきなのに事前に試したところ「md100010.dat」となりまして。
毎日更新されるべきデータが十日に一度しか更新されず、更に毎日上書きされるバグでした。
製造元のオランダに問い合わせたところ、既にバグは直したというのですが直っておらず、一年近く前まで国内向けに改造していた大手メーカーは既に撤退しており。
日本向けに改造されたプログラムで動作していたロボットは、オランダで面倒みてもらえないそうで。
仕方ないので、可能な限り時計を過去に戻しました。

一般的には「うるう年」が四年に一度あり、四の倍数で一番昔の年に時刻を合わせることに。実際のところMS-DOSは1984年が一番過去(だった記憶ですが)で、それに合わせました。
しかし、本番でちゃんと動作する保証は何もなく。
仕方ないので、大晦日から元旦にかけて十勝地方のお客さんの牧場に泊まりがけて対応。

これが寒かったのですよ。
防寒着を着ていましたが、半屋内の牛舎は暖房を焚いていても氷点下。
世間は「ゆく年くる年」の中、時折やってくる乳牛を見つめながら凍てつく牛舎で新年を迎えました。
問題は何も無いと一時間ほど経って、牛舎に併設する三畳ほどの部屋のコタツでひと眠り。防寒着は着たままでした。

寒さで幾度も目が覚めた中、ようやく朝が来て撤収することになったのですが、おもいきり風邪をひいたようでした。
寒気と高熱と意識朦朧。
この時は列車での移動だったので、牧場から最寄りの大きな駅までは地元の販売店の技師の方に送ってもらうことに。
帯広駅に到着したのは朝の八時くらいだったか。
次の列車が来るまではけっこうな待ち時間でした。
寒気と高熱は益々酷くなり、風邪薬でも飲まねば「死ぬかも」な体調。

駅の窓口で聴いてみました。
「この辺に薬局はありますか?」
しかし、まだ早朝で開いていないし、だいたい今日は元日です。
見るに見かねた駅員さんは「少々お待ちください」と奥に入り、数分もしないで戻ってきました。
バファリンか何かの錠剤と、コップに入れた水を持ってきてくれて。
近年稀にみる感謝となりました。本当に世の中捨てたもんじゃないなぁと。

帯広駅の駅員さんには未だとても感謝しています。
牛舎の臭いが染み付いた防寒着の男が元旦の早朝から弱っていたら、見捨てられなかったのかと思いますが、助けられたのは確かです。
何でこんな古い話題を綴っているかというと、先ほどのニュース記事で十勝方面も猛吹雪で帯広駅に取り残された乗客が何人も居るとの情報で。
その記事に対してのコメント、残念なのが目につきまして。

二千年問題、もう忘れられて久しいです。

コメント

  1. ルノワール佐藤 より:

    新冠のこの道、俗に言う「サラブレッド銀座」だな。
    襟裳(えりも)に里帰りする時は、写真後方の展望台を兼ねた駐車場で、毎回トイレ休憩したものです。

  2. SUKIYAKI より:

    ルノワールさん
    襟裳に仮名をふる辺り、ジェントルですネ。読めない漢字が多過ぎです。
    「新冠(にいかっぷ)はどんな意味だ?」とオランダ人技師に聴かれて「New Cap」と答えたことがあって、音が一緒だなぁと感動したりでした。
    ルノワールさんは北海道暮らしが長かったので、冬道で危ない思いしていそうで。地吹雪があんなに恐ろしいとは。

    数日前、大雪の千歳の林道で遭難者を救出に向かった方が亡くなられたとのニュース。実家の裏の辺りかなぁと想像していました。
    夏場に四駆でよく伺ったエリアなのですが、バックで失敗し小さな崖から転落しかけて弱った思い出もありました。たまたま通りかかったウインチ付きのランクルに引っ張り上げてもらえて。

  3. GeekLette より:

    キターー!ついにここまで。。いつかは来ると思っていましたが、、。 これは山ボーイへのプレゼントにしなければ。 しかし、内容が全く頭に入ってこなかったので あとで再度読み直しますわ(´⊙ω⊙`)

  4. SUKIYAKI より:

    GeekLetteさん
    コメント、ありがとうございます。
    もしかして、何処かでお会いしたことのある方でしょうか?
    どうにも思い出せず..。