漱石の「それから」の映画版を観ました。
原作は高校時代に読んでいて、何のことを言っているのかよく解らなかったです。終盤にかけて、そういうことだったのかな?と。
映画版の方は大学時代だったかにテレビ放映で観たのですが、カットされた場面が多かったのか、やはり解り難い展開だった記憶です。
昨年、封印されていた「夜叉ヶ池」がCSで数十年ぶりに放映されると知り、一ヶ月だけ受信契約をして、ついでに撮っておいた「それから」をようやく観ました。
今回は結構響きました。
森田芳光監督と松田優作は映画「家族ゲーム」でも、どうでも良さそうな場面を敢えて手短に仕掛けたり。それが案外重要だったり。
映像じゃ無いと伝わらない部分を大いに活かしているなぁと。
そんな部分は文学だったオリジナルを超えているとも思えました。
ただ、細かな部分はちょっと気になり。
その後どうなったの?と思える場面が幾つかあり。あの花瓶の水を呑んでしまって大丈夫だったのか?とか、ヒロインなりの何らかの覚悟があったのか?とか。
漱石自身も後に繋がらぬ脇役を他の作品で印象深く登場させていたりだったので、ある面、漱石らしいよなぁとも。例えば「こころ」の序盤に登場した海水浴場での外国人とか。
「三四郎」に至っては、「いつ柔道部に入るのか?」と読み進めた読者も居るそうで。尤もコレは後世の全く別の作品が影響していたのですが。
松田優作の冷めた演技が印象的でした。それ以上に藤谷美和子さんの演技力が凄いなぁと。
実生活の藤谷美和子さんはその後にメンタルの問題を抱えてしまったのか、勿体無いと思えたりです。元々は100円のポテトチップスを宣伝する陽気な女性で。
笠智衆さんもありがたい演出でした。この方は存在そのものが古い日本人のお爺さんそのもので。「東京物語」でも「男はつらいよ」でも、基本的に同じ扱いだったかと。
この役にはこの人を置いておけば、全て説明がつくくらい。
ただ、事前に原作を読むなり、もう一度観るなりしないと、序盤からの演技が伝わらなかったのかもなぁと。
夏に文学を読む機会が自分は多かったです。
最近は老眼が進んでしまい、本そのものを読まなくなり。それでいてスマートホンは手放さず、何だか矛盾を感じていたり。
自分にとっての漱石は悟りを開いた老人に近い扱いでした。
しかし、僅か49歳で他界していて。晩年は消化器系の不良が続いていて、不健康な文化人そのもので。
過度のストレスに悩まされる大人というのは、メンタルか消化器系のどちらかに問題を抱えがちと思っていました。漱石に至ってはどちらも経験していて。
いつの間にか漱石の歳を追い抜いていた自分です。相変わらず大人になり切れていないなぁと。
コメント
森田芳光は、巷に熱狂的なファンが多いので批判がましいことが言いづらいが、自分的には作品の出来不出来がはっきり分かれている印象です。特に文学作品を原作にしたのは、なんかピンとこない。
でも「それから」は、静謐だけどどこか摩訶不思議な演出が記憶として残っている。
全作品を観たわけではないけど、マイベストは「の・ようなもの」「家族ゲーム」「(ハル)」ですかね。
特に「(ハル)」は、大名作だと思う。
自分も語れるほど同監督の作品を観てはいないのですが、場面場面が印象的な「それから」でした。
「の・ようなもの」は中学生くらいの時だったか、テレビ放映で観ていました。演芸場のまばらな観客も寝に来てるだけだったり、ちょっとシュールな場面が記憶に残っています。
しかし、ストーリーをほとんど覚えておらず。