あんたもうちょっとちゃんと弾きなさいよ!

出身地な千歳市滞在三日目です。
短期間なのに書ききれないほど色々とありました。

再会した母は、思った以上にやつれていました。
終わりが近い人の色素が抜けた様相というか。
ただ、日を追う毎に少しずつ顔色も戻っていった様にも思えました。

昨日は帯広から同い年のイトコも実家へ訪問してくれて、ちょっと賑やかな雰囲気に。
そして、今週末から入院予定だった札幌の兄の家へイトコと一緒に伺ってみることに。
兄にはアポなしのかなり強引な提案に、イトコも乗ってくれて。

兄の暮らすマンションへは高速道を飛ばして40分ほどで到着。
そこで兄に電話し「いまマンションの入口に〇〇君と一緒にいるから、会おうよ」と。
歳下の二人から誘われたのでは断りようも無かった様子です。
数分待って兄は登場しました。

15分ほどの会話だったでしょうか。
兄は病人に見えないほど健康そうでした。
癌の治療は大変そうですが、早期発見と思われるので、きっと無事に退院出来ると思います。
ただ、治療の結果によっては聴力を失う危険性もあるらしく。兄の趣味は楽器の演奏や音楽制作だったりなので、少しでも残ってほしい聴力です。

数週間前にイトコが撮ってくれた母の写真も見せてもらえました。
言われなければ末期癌の病人とは思えないほど、生気が漂っていました。
僅かな期間でここまで変わってしまうとは。。

帯広の叔母には相当な面倒を掛けてしまいました。
春の時点ではゴミ屋敷だった実家は二十年前よりも綺麗に片付いていて。
実家の玄関は昔飼っていた犬の香りがずっと残っていたものの、それもほとんど残っておらず。
介護されている方特有の部屋の臭いなど全くなく、逆に爽やかなラベンダー系の香りさえほのかに。
やはり、介護疲れで叔母を縮めてしまわないかが一番心配です。
ずっと真っ当に生きてきたのですから。

実家には予定通りの一泊としました。
家を出る前に古いピアノを弾いてみる流れになってしまい。
部屋は十分に片付いていたので、介護ベッドをずらして先ずは自分が覚えている僅かな曲を。
しかし、全く練習していない指に、大リーグ養成ギブスの様な重い鍵盤。力任せに弾くしかなく。
トチリつつもEvansの一曲を何とか終えたところ、母は「あんたもうちょっとちゃんと弾きなさいよ!」と、呆れかえった叱り。
相変わらず要求レベルは高いなぁと。一生懸命弾いてるのになぁ。
しかし、この容赦なきやり取りは病人云々を抜きに、あの頃と何も変わらぬ何か。
これが、自分が待っていた一言だったんだろうなぁと。

そこで、指が覚えていたもう一曲を弾き始めたところ、一同爆笑。
ショパンの「別れの曲」だったのですが、このタイミングで弾く曲じゃないでしょ!と。
結局完奏できず。

日本ではそんな名前の曲なのですが、本来はそんな意味じゃなかったハズで。
そんな説明を真顔でしたのがまた可笑しかった様子です。狙った冗談ほど自分はウケないのですが、天然のボケでして。
その後にイトコが見事な演奏を何曲も。

母は感動のあまり涙ポロポロで。
母は何があってもあのピアノだけは手放したくなく。
母もピアノもやっと報われた日となりました。

その後に荷物を抱えて実家とお別れ。
予約していた宿まではイトコの運転で。
叔母が自分の帰省を先週望んだ意味がやっと理解できて。それもかなり気を遣ってくれた言葉でした。
再会した母はほんの少し前の写真とは別でした。衰弱と衰えと。
ここ数日、母は必死に生きていました。
胸が痛く。

実家から離れる車の中、涙が抑えきれなく。
母の前でも叔母の前でもそんな姿見せたくなく。
運転していたイトコには申し訳なく。
ほんと、すみません。

逃げるように実家を出たしっぺ返しで、スマホやノートPCの充電に必要な機材やバッテリーを忘れてきてしまい。
このままでは誰とも連絡できず、帰りのチケットも入手出来ず。
初日の午後に寄ったモリモト(昔からある中心街のパン屋さん)ではお望みのピロシキが既に売り切れでした。10時くらいまでなら確実に手に入るそうで。
今朝はモリモトでピロシキとプリンを入手し、再び実家へ。
実家へ向かうバスの中に知り合いは居ないかなぁと。居るわけないのですが。
叔母には昨夜の時点で忘れ物を取りに行く旨伝えていました。
今朝の母は自分がここに居る違和感が既に無くなった様子で、平凡な会話を楽しんでくれて。
認知症が進んだ母は、初日に「どうしてケースケがここに居るの?」と尋ねてばかりで。
それが、叔母の話では二日目の夜からは目を覚ます度に「ケースケは帰ったの?」ばかりだそうです。

千歳で暮らしていた学生時代の友人達ともタイミングが合えば会うつもりでした。
会いたかったです。
しかし、心の収穫が二晩目にして既に満杯で。
ここまでは、家族優先の旅程で良かったと思います。

コメント

  1. p より:

    読みながら
    泣いてしまったよ!

    息子に会えて
    良かった!

    • SUKIYAKI より:

      うん。
      自分もヤラレタ感です。

      Pどんは知らないかもしれないけど、昔、林家三平さんっていう妙な落語家が居てね。
      病気で倒れて、入院先でいよいよ危ない状況になってお医者さんから尋ねられたそうで。
      「あなたのお名前を言えますか?」
      「加山雄三です」
      その場にいた一同は、感動したそうです。
      あれはいつか自分も演ってみたく。