未完成での発表

世の中には、未完成でも発表しなくてはならなかった作品が色々とある様です。
作者本人の意向というよりは、出版側や配給側の問題なのかと思います。

スペースパイレーツ:江口寿史】
漫画「すすめ!!パイレーツ」のキャラクターを採用したギャグ系のSFチックな宇宙でのストーリーでした。
80年代くらいの作品だったと思いますが、週刊少年ジャンプか何かに載った短編でした。
この作品の何が凄かったかというと「あれは何だ!」的な描画で終わってしまった点です。
作者自身が何かの問題を背負っていたとか、製作時間が足りなかったとか、何らかの事情があったのかと思われますが「起承転結」の結が無く。
別に起承転結の順で無くても良いのですが、結が無い作品は初体験でした。そこで作者が力尽きたものの、そのまま発表されてしまったのが画期的で。
自分の兄は、江口寿史さんのイラストが好みだった様で「ストップ!! ひばりくん!」も愛読していました。

【マカロニほうれん荘:鴨川ツバメ】
ここで語るほどの無い有名な作品です。
単行本では全九巻くらいだった記憶です。一巻目の最初の方はキャラクターの作画も不安定で、特にキンドーさんが別人に近く。
二巻目辺りからは、当時の洋楽も交えた時代の最先端とぶっ飛んだギャグストーリー。オマージュ的な要素も多かったそうなのですが、当時の自分はそんな知識も無い小学生でした。
たぶん、これ以上のギャグ漫画は今後登場しないだろうと。なので、終盤のやる気のない作風さえも笑えてしまい。その終盤の作品だけを観た方は、何が面白いのかサッパリ分からなかったと思います。
どうしてそうなってしまったのかは、大人になってから知った「消えた漫画家」で知った次第です。やる気を失った作者は一時期ソープランドで働いていたとも。

火垂るの墓
原作は野坂さんのアニメ版の方です。
予備知識なしにテレビ放映を観てしまい、途中から涙が止まらなくなった作品でした。
なので、再放映では最初の方から涙ポロポロでした。この先に待っている不幸を知っていたから。
2000年にオランダへ三ヶ月出張した際も、この作品がケーブルテレビで幾度か放映されていました。オランダの人々はこれをどう思ったのか。
生きるために、妹を助けるために畑で泥棒を働いた兄が逃走する場面、自分が観たのは黒い線描画だけの動画だった記憶です。色が塗られていない場面でした。
逆にこれに説得力を感じていたのですが、製作時間か何かが足りなかった結果だそうでした。Wikiによると、その辺の事情が詳しいです。
主人公の少年もそうだったように、製作側も切羽詰まっていたんだなぁと。
野坂昭如さんについては、昭和時代のサントリーのCM等でインパクト感じていました。人生そのものがヤケクソだったというか。
ただ、そんな野蛮な作者の純粋な部分がこの作品に凝縮されていた感です。

【題名知らず】
題名を全く思い出せない映画です。
80年代にハリウッド映画の歴史を解説していた番組で知りました。
大ヒットした映画の華やかな舞台裏の紹介も面白かったのですが、絶望的な失敗をした駄作の紹介もあり。
当初はそれなりのスケールを持った愛を語る作品だったそうなのですが、途中で予算が足りなくなったらしく。
それでも公開する必要があり、「結」を導く苦肉の策で撮影セットを破壊しまくる突然の展開に。
もはや、前後関係なくセット以前に主人公が壊れた内容だったそう。
この作品、一度くらいは観てみたかったものの、どうやっても辿り着けない検索結果です。

明暗:漱石】
いつか読んでみたい作品の一つです。
漱石の遺作となった作品、執筆途中で他界されたものの文庫本でも残っているのですが、途中で終わったのにやたら分厚く。
あらすじを読むだけでも、けっこう重く。
漱石の初期の作品にはチョンマゲを貫く江戸時代からの老人も登場したりなのですが、大正時代のこの作品は現代に通ずるサラリーマンが主人公らしく。

作者の「草枕」の冒頭に登場した言葉の列は、あまりに凝縮されていて解読に時間が掛かり。こんな薄っぺらい作品なのに。勿論、無駄な言葉は含まれていないのですが。
「世に住むこと二十年にして、住むに甲斐かいある世と知った。二十五年にして明暗は表裏のごとく、日のあたる所にはきっと影がさすと悟った。」この頃の心境が生んだ作品なのかなぁと。

文豪と呼ばれるのは、歳喰ってからじゃないと意味が分からない表現もあるのかと。
漱石は49歳で他界しているそうです。身体が弱っていたとしても、もっと高齢かと思っていました。「こころ」に登場した乃木大将以上に精神年齢は上そうで。
そんな漱石より、自分の方が既に年寄りであったとは。
当時の人は人生も凝縮されていたのであろうか。

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